労災保険と自賠責保険
従業員が通勤途中または業務中に自動車事故に遭った場合、労災保険による保険給付を請求する権利と自賠責保険による保険金の支払を請求する権利の両方を持つことになります。この両者の関係はどうなるのでしょうか。
● 労災保険
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければなりません。この労災補償責任は使用者の過失の有無を問いません。そして、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速・公正な保護をするため、必要な保険給付を行う労災保険の保険給付の制度があります。これも事業主の強制加入の保険ですが、事業主が加入の手続や保険料納付を怠っていた場合でも、保険給付が行われます(政府は事業主から保険料を遡及的に徴収します)。
労災保険の給付には、療養・療養費の給付、療養中の休業につき休業4日目から1日につき給付基礎日額(通常は平均賃金相当額)の60%相当が支給される休業(補償)給付、療養期間が1年6ヶ月を経過した場合の傷病(補償)年金、障害が残った場合の障害(補償)給付、災害により死亡した場合の遺族(補償)給付、葬祭料・相殺給付、介護費用を補填する介護(補償)給付などがあります。
● 自賠責保険
自動車による人身事故の被害者を救済するため、自動車の保有者に自賠法3条の損害賠償責任が発生した場合、保有者及び運転者が損害賠償責任を負担することによって被る損害につき、一定額を限度として填補する保険です。自動車の保有者は自動車1台ごとに自賠責保険に加入することが強制されています。自賠法3条は、自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、原則として、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる旨を定めています。
一定額というのは、自賠責保険には補償の限度額があるということです。(1)死亡した者1人について死亡による損害3,000万円、死亡に至るまでの傷害による損害120万円、(2)傷害を受けた者1人につき傷害による損害120万円、?後遺障害に対しては程度に応じて14級の75万円から1級の4,000万円までとなっています。
● 労災保険と自賠責保険の調整
労災保険は労基署に請求書を提出し、自賠責保険は保険会社に請求書を提出しますが、どちらも被害者・被災者の受けた損害を補填する目的の保険であり、政府が管掌する保険ですので、両方から二重に保険給付を受けることは合理的ではありません。そこで、労災保険と自賠責保険が同一の損害で同一の受給者について重複する限度で、二重取りにならないように調整することになっています。
(1)同一の事由について損害賠償が先に行われたときは、その価額の限度で政府は保険給付義務を免れ、(2)労災保険給付が先に行われたときは、その限度で同一の事由について被災者のもつ損害賠償請求権を政府が取得(代位取得)することとされています。
(弁護士 緒方義行 http://www.fuso-godo.jp/)
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